column コラム
睡眠時無呼吸症候群の重症度とは…診断基準と治療法を専門医が解説
2025.11.17
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とは何か
2.重症度を判定する指標「AHI」について
3.診断のための検査方法
4.治療法の選択肢
5.よくある質問(Q&A)
6.まとめ
睡眠時無呼吸症候群の重症度とは
「最近、家族からいびきがひどいと言われる」「日中の眠気が取れない」・・・そんな症状に心当たりはありませんか?
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が一時的に止まる病気です。単なる「いびき」と軽視されがちですが、実は高血圧や心疾患、脳卒中といった重大な合併症を引き起こす可能性があります。適切な診断と治療を受けることで、これらのリスクを大幅に減らすことができます。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群の重症度を判定する基準や、具体的な診断方法、そして症状に応じた治療法について、専門医の視点から詳しく解説します。ご自身やご家族の健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。
睡眠時無呼吸症候群とは何か
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は、眠っている間に空気の通り道である上気道が狭くなり、一時的な無呼吸状態や低酸素状態が引き起こされる病気です。
この病気になると、睡眠の質や量が著しく低下します。頭痛や日中の眠気、倦怠感が現れることがあり、さらに無呼吸により体内の酸素濃度が低くなることが続くと、脳卒中や心筋梗塞などの大きな病気を招く恐れもあります。
主な症状と日常生活への影響
睡眠中の症状としては、大きないびき、呼吸の一時的な停止、息苦しさによる目覚め、寝汗などが挙げられます。
起床後には、目覚めた時の頭痛や喉の渇き、体の重さ、疲労感を感じることが多いです。日中の症状としては、頻繁に眠気を感じる、急な睡魔に襲われる、疲れやすい、だるさ・倦怠感がある、集中力が持続しないといったものがあります。
これらの症状は、仕事や学業、運転などに支障をきたす可能性が高く、交通事故や労働災害の原因にもなります。実際、居眠り運転のリスクが高いと判断され、運転免許証の交付や更新を拒否されることもあるのです。
タイプと原因
睡眠時無呼吸症候群には大きく分けて2つのタイプがあります。
「閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)」は、日本人の睡眠時無呼吸症候群の大部分(約80~90%程度)を占めます。これは上気道の狭窄や閉塞が原因となるもので、肥満による首まわりの脂肪沈着、扁桃肥大、舌が大きいこと、鼻炎・鼻中隔弯曲といった鼻の病気が主な要因です。あごが後退していたり、あごが小さいこともOSAの原因となり、肥満でなくても発症することがあります。
「中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)」は、気道の閉塞はみられないものの、何らかの原因で脳にある呼吸中枢への呼吸運動の指令がうまく行き渡らなくなるタイプです。
日々の喫煙や飲酒といった生活習慣や、加齢による筋力の低下、高血圧・糖尿病・高脂血症という持病も睡眠時無呼吸症候群を促進する原因になります。
重症度を判定する指標「AHI」について
睡眠時無呼吸症候群の診断では、重症度を測る指標として「AHI(無呼吸低呼吸指数)」が用いられます。
AHIとは、睡眠1時間あたりの無呼吸および低呼吸の合計回数を指します。無呼吸とは、睡眠中に10秒以上、呼吸が完全に停止する状態のことです。低呼吸とは、呼吸が浅くなり、動脈血酸素飽和度が約3%以上低下しているか、覚醒を伴う症状のことを言います。
AHIによる重症度分類
AHIが5以上(呼吸が止まったり、浅くなったりする回数が1時間に5回以上)だと睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
重症度は以下のように分類されます。
- 軽症:AHI 5~15
- 中等症:AHI 15~30
- 重症:AHI 30以上
重症度によって、治療の方法が変わってきます。軽症の患者さんは、肥満を解消したり、生活習慣を整えることで症状が改善することもありますが、中等症や重症の患者さんは、より積極的な治療が必要となります。
放置した場合のリスク
中等症以上の睡眠時無呼吸症候群を8年間放置すると、死亡率が約37%になるという報告があります。
成人の睡眠時無呼吸症候群では、高血圧、脳卒中、心筋梗塞などを引き起こす危険性が約3~4倍高くなり、特にAHI30以上の重症例では心血管系疾患発症の危険性が約5倍にもなります。しかし、適切な治療を行っていびきや無呼吸が改善すると、心筋梗塞や脳卒中のリスクが、健康な人と同程度まで抑えられるようになります。
診断のための検査方法
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、専門医は問診などで症状を確認した後、検査によって睡眠中の呼吸状態の評価を行います。
簡易検査
まず、携帯型装置による簡易検査を行うことが一般的です。
この検査では、気流センサーや胸とお腹の呼吸運動センサーといった呼吸センサーを使用し、自宅で一晩検査を行います。手軽に実施できるため、スクリーニング検査として広く用いられています。
精密検査(ポリソムノグラフィー:PSG)
より詳しい診断が必要な場合は、ポリソムノグラフィー(PSG)という精密検査を行います。
PSGでは、呼吸センサーのほか脳波、眼球運動センサーといった睡眠センサーなど約10種類のセンサーをつけ、一晩入院して検査を行います。この検査により、睡眠の質を詳細に評価でき、1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数であるAHIを正確に測定できます。
PSGにて、AHIが5以上であり、かつ日中の眠気などの症状を伴う際に睡眠時無呼吸症候群と診断します。
何科を受診すべきか
睡眠時無呼吸症候群の診療は、主に呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠外来の3つの診療科で行われています。
呼吸器内科は、日中の強い眠気、朝の頭痛、夜間の頻尿などの全身症状が主体の場合や、肥満が原因と考えられる場合、高血圧、糖尿病、心疾患などの生活習慣病を合併している場合に適しています。
耳鼻咽喉科は、扁桃肥大、アデノイド増殖症、鼻中隔湾曲症、慢性副鼻腔炎などが原因となっている場合に効果的です。特に小児の睡眠時無呼吸症候群では、扁桃やアデノイドの肥大が主な原因となることが多く、耳鼻咽喉科での診療が第一選択となります。
睡眠外来や睡眠センターは、複雑な睡眠時無呼吸症候群や、他の睡眠障害との鑑別が必要な場合、より専門的な診療を希望する場合に適しています。
治療法の選択肢
睡眠時無呼吸症候群の治療は、重症度や原因に応じて選択されます。治療を開始したら、AHIの数値が5以下になることを目指していきます。
CPAP(持続陽圧呼吸療法)
AHIが20以上で日中の眠気などを認める睡眠時無呼吸症候群では、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)が標準的治療とされています。
CPAPは、鼻を覆うマスクを付け、そこに気道へ空気を送るチューブを付けて無呼吸の状態を防ぐ治療法です。マスクを介して持続的に空気を送ることで、狭くなっている気道を広げます。
CPAPは長期間続けることになりますが、副作用・合併症がほとんど出ない、自宅で簡単に続けられるというメリットがあります。CPAP治療により、健常人と同等まで死亡率を低下させることが明らかになっています。
口腔内装置(マウスピース)
軽症の場合は、マウスピース(口腔内装置)で治療をすることもあります。
マウスピースを付けると顎が前に出て、舌が落ちることによる気道の閉塞を防ぐことができます。下あごを前方に移動させることで、上気道を広げる効果があります。
手術療法
手術による治療法もあり、小児の睡眠時無呼吸症候群ではアデノイド・口蓋扁桃肥大が原因であることが多く、その際はアデノイド・口蓋扁桃摘出術が有効です。
成人でも、明らかな上気道の形態異常が疑われる場合は、手術療法を含めた根本的な治療の可能性を検討できます。主に扁桃を切除して喉を広げる「口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)」と、レーザーを使って喉の周りを焼き切り喉を広げる「レーザー口蓋垂軟口蓋形成術(LAUP)」といった2つの術式が使い分けられます。
生活習慣の改善
医師から肥満を指摘された患者さんは、食事と運動を見直して減量しましょう。減量に成功するといびきが減ったり、軽度のうちなら治療がいらなくなることもあります。
寝酒や睡眠薬は筋肉の緊張を緩めるため、寝ている間に気道が狭くなり、無呼吸を悪化させる恐れがあります。タバコも気道の炎症を引き起こすため、禁煙が望ましいです。
アルコールは睡眠の質を悪化させるので、晩酌は控える必要があります。肥満者では減量することで無呼吸の程度が軽減することが多く、食生活や運動などの生活習慣の改善を心がけることが重要です。
よくある質問(Q&A)
Q1. AHI指数がいくつから治療が必要ですか?
AHIが5以上で睡眠時無呼吸症候群と診断されますが、治療の必要性は重症度と症状によって異なります。一般的に、AHIが20以上で日中の眠気などの症状がある場合は、CPAP療法などの積極的な治療が推奨されます。軽症(AHI 5~15)の場合は、生活習慣の改善や口腔内装置での治療から始めることが多いです。
Q2. 簡易検査と精密検査(PSG)の違いは何ですか?
簡易検査は自宅で行える携帯型装置を使用し、主に呼吸状態を評価します。一方、精密検査(PSG)は入院して行い、呼吸だけでなく脳波や眼球運動など約10種類のセンサーを使って睡眠の質を詳細に評価します。簡易検査でスクリーニングを行い、必要に応じてPSGで詳しく診断するという流れが一般的です。
Q3. CPAP療法はいつまで続ける必要がありますか?
CPAP療法は基本的に長期間続ける治療です。ただし、肥満が原因の場合は減量に成功することで症状が改善し、CPAP療法が不要になることもあります。治療の継続については、定期的な検査結果と症状の変化を見ながら、医師と相談して決定します。
Q4. 子供でも睡眠時無呼吸症候群になりますか?
はい、子供でも睡眠時無呼吸症候群になります。小児の場合は、扁桃やアデノイドの肥大が主な原因となることが多く、扁桃摘出術とアデノイド切除術により症状が著しく改善されることが示されています。子供の発達にも影響を及ぼす可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。
Q5. 睡眠時無呼吸症候群は完治しますか?
原因によって異なります。扁桃肥大やアデノイド増殖症が原因の場合は、手術により根本的な治療が可能です。肥満が原因の場合は、減量により症状が大幅に改善することがあります。ただし、加齢や骨格的な要因が関与している場合は、CPAP療法などで症状をコントロールし続ける必要があります。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群は、AHI(無呼吸低呼吸指数)によって重症度が判定され、適切な治療法が選択されます。
軽症(AHI 5~15)、中等症(AHI 15~30)、重症(AHI 30以上)と分類され、重症度が高いほど心血管系疾患のリスクが高まります。しかし、CPAP療法などの適切な治療により、これらのリスクを健常人と同等まで低下させることが可能です。
診断には簡易検査やポリソムノグラフィー(PSG)が用いられ、治療法にはCPAP療法、口腔内装置、手術療法、生活習慣の改善などがあります。症状や原因に応じて、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠外来などの適切な診療科を受診することが大切です。
いびきや日中の眠気が気になる方は、ぜひ専門医にご相談ください。早期の診断と治療が、健康な生活を守る鍵となります。
睡眠時無呼吸症候群の診断や治療について、さらに詳しく知りたい方は、コレージュクリニックまでお気軽にお問い合わせください。経験豊富な専門医が、お一人おひとりに最適な治療法をご提案いたします。
コレージュクリニックとは

当院は、いびきをはじめ、睡眠時無呼吸症候群や花粉症・アレルギー性鼻炎などの診療を専門とする耳鼻咽喉科クリニックです。
いびきは単なる音の問題にとどまらず、時に健康へ深刻な影響を及ぼすこともあります。当院では、原因や症状を丁寧に見極めたうえで、適切な診断と治療をご提案し、質の高い睡眠の回復をめざします。
一人ひとりに寄り添いながら、健やかな眠りと快適な毎日をサポートいたします。
レーザー治療は保険適用、自己負担は約3割
ほとんどの治療は健康保険が適用され、自己負担額はおよそ31,000円前後。保険証をお忘れなくご持参ください。
医師紹介
都筑 俊寛(つづく としひろ)

耳鼻咽喉科専門医。レーザー治療の臨床と研究に長年携わり、28,000件以上の治療実績をもつ。
- 日本耳鼻咽喉科学会認定 専門医
- 日本めまい平衡医学会 参与
- 日本臨床医療レーザー協会 会員
- 帝京大学医学部 元准教授
いびきは単なる音の問題ではありません。 睡眠の質を下げ、生活の質を大きく損なうこともあります。 専門医として、安心できる診断と治療を通じて、より良い毎日を取り戻すお手伝いができればと願っています。